En Ja

JOURNAL

Journey to the forest

01
森への旅路
Illustration by Adrian Hogan

日本のものづくり文化は豊かな伝統、細部へのこだわり、そして技巧の絶え間ない探究によって成り立っています。職人たちを現場で長く見ているうちに私は、彼らの仕事の根底にある哲学に惹かれるようになりました。彼らにとってものづくりは職業というだけではなく、生き方のひとつなのです。彼らとの対話を続けるなか、私はものがどのように作られるのか理解するだけでなく、ひとつのことに打ち込むだけではない、彼らの世界への向き合い方を知るようになりました。

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ここ数か月、東京は広範囲に繋がる大都市から、緩やかな関わりを持った地域の集合体へとそのあり方を変化させたように感じる。私たちが地元と呼ぶ地域に日常生活は制限され、仕事や息抜きに対応するため住まいも新たな重要性を持ちはじめた。変化し続ける環境を日々観察しているうちに、身の回りにあるものもまた新鮮に見えてくる。

自分の部屋にある工芸品コレクションを新たな視線で見直すようになったきっかけは、小さな木製の皿だった。木工家・川合優の手による、非常に薄い杉の経木は手の曲線に緩やかに収まり、その香りが私をいつか訪ねた岐阜の山々へと誘う。多くの川合作品がそうであるように、森を近くに感じる。日常においても、その土地と繋がることができるのだ。

昨年、夏の終わりのある穏やかな朝、川合が彼の故郷である岐阜の美濃加茂近くにある小さな森に私を案内してくれた。植林された針葉樹と波打つような分厚い皮に幹が覆われたアベマキの間を進みながら、川合は近くの山々を探検した少年時代のことを語った。数十年経ってなお、森は彼に畏敬の念を懐かせる。

自身の名の元で家具作りを始めてからほぼ10年後の2016年、川合はSomaを立ち上げ、地元の杉や檜を用いた日用品の生産を開始した。輸入された、もしくは再生不可能な木々の植林による、日本における木材利用の非効率性、そしてそれが地域の暮らしや木にまつわる文化に及ぼす影響を考えてのことだった。

素材そのものが出発点だった、と川合は言う。「木工というのは、それを読み解き、整理し、ふさわしい形に整える遊び、だと思う」と。それが育った場所、そして数十年、あるいは数世紀に及ぶその成長過程など、木材ひとつひとつを理解してゆく中で、彼がデザインする製品が形作られていった。それはまた、物づくりのワークショップや自然探索のフィールドワークの開催、そして責任ある植林についての啓蒙活動へと彼を促していく。

職人は、語り手の資質も備えていることが多い。土地の歴史や数世代に渡り受け継がれた伝統など、彼らの作り出すものには物語が詰まっている。川合にとってSomaは、日本の木々を理解すること、そして木々とともに生き培ってきた文化に新たな光を当てるためのプラットフォームになっている。自然界と私たちの関係性が複雑になった現在、日常で使われる作品を通して彼は、森の価値についての新たな対話を促してくれる。

このテキストは、ものづくり文化についてのニュースレター「The White Paper」の創刊号です。ニュースレターの登録はこちらから。

いつまでも価値のある道具

数年前から私は東京の東側を定期的にサイクリングしながら、自転車用のシティガイドを作ろうと様々な地域の名店や名所を見つけていった。自転車のスピードは町のリズムと同調し、町の工房や小さな工場といった製造の現場がよく見えるようになった。そしてそれらが日常の一部になっていることに惹かれていた。

遊び道具としてのバスケット

銀座散歩の楽しみは、メゾン・エルメス抜きには考えられない。いつ訪ねても、たとえ遠回りになっても、私はレンゾ・ピアノ設計によるタワーの目の前を通り、そのウィンドウ・ディスプレイをチェックするようにしている。正面のウィンドウは定期的にアーティストやデザイナーによる新しいディスプレイを見せてくれるが、特に印象的だったのが、デザイナー・藤城成貴による遊びをモチーフにしたものだった。

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